三菱UFJニコス、非接触IC決済「ビザタッチ」で地方スーパー開拓

(2007年6月13日 日刊工業新聞)

決済サービス「VISA Touch」(スマートプラス)

三菱UFJニコス社が展開
後払い式

三菱UFJニコスは、三菱UFJニコス社が展開する後払い式の非接触IC方式の決済サービス「ビザタッチ」(スマートプラス)で、地方の食品スーパーへの攻勢を強めている。ICチップを搭載したカードや携帯電話などを読み取り機にかざすだけで支払いが済む「ビザタッチ(VISA Touch)」(スマートプラス)サービスは、精算の迅速化や客単価の増加が見込める。クレジットカード決済を導入していない食品スーパーの開拓も進み、非接触IC決済を加盟店拡大の武器にも活用している。

ビザタッチサービス
クレジットカード決済

ビザタッチは、後払い式の非接触IC決済サービスで、ビザタッチサービスを扱うクレジットカード会社の会員でないと利用できない。このためクレジットカード決済を導入していない店舗では、非接触ICでの決済と同時にクレジットカード決済を導入する必要がある。

Aコープ
ジャコム石川

石川県内で食品スーパー「Aコープ」を展開するジャコム石川は、2007年5月下旬に「ビザタッチ」(スマートプラス)とクレジットカード決済を同時に導入。非接触IC決済の導入店舗を順次拡大している。

カードのポイント
精算処理の迅速化

加盟店側の非接触IC決済導入による利点は、精算処理の迅速化や、客単価の増加、クレジットカード会社との提携カードの発行による顧客の組織化などがある。顧客にとっても、支払時の利便性向上やカードのポイントがためられるという利点がある。

食品スーパー
ママイ

愛媛県を中心に食品スーパーを展開するママイは、2007年初にクレジットカード決済と「ビザタッチ」、提携カードを導入。発行後2カ月で約5000人のカード会員を獲得した。ママイスーパーでは提携カードの利用のうち90%以上がビザタッチによるもので、会員によるママイ店の月間平均利用回数は約10回と、高い稼働率となっている。

ドラッグストア
飲食店、ガソリンスタンド

三菱UFJニコスは食品スーパーやドラッグストア、高速道路周辺の飲食店、ガソリンスタンドなど、同じ顧客が繰り返し訪れる業態に絞った非接触IC決済サービスの導入を進めている。今後は、「ビザタッチ」サービスの普及を自社のクレジットカードの利用拡大にどう結びつけていくかが、課題となる。

ユニーで複数の電子マネー使えます

(2006年10月28日 読売新聞)

レジ独自開発 グループ全店導入へ

共通端末レジ

ユニーは2006年10月27日、複数の電子マネーが利用できる共通端末レジを自社開発し、2007年度中にユニーとユーストアの全店に導入すると発表した。流通大手各社は複数の電子マネーに対応したレジ導入を検討しているが、スーパー全店での本格稼働を表明したのはユニーが初めてとなる。

POS
携帯電話やICチップ

ユニーが導入するレジは、POS(販売時点情報管理システム)と連動しており、携帯電話やICチップ(集積回路)を組み込んだカードを端末にかざしただけで支払いができる。システム開発費と、レジ9500台の交換費用を含めて、約30億円を投資する。

「クイックペイ」と「ビザタッチ」
自社カード「UCS」

スタート時は、後払い方式で、カードと携帯電話で扱える「クイックペイ」と「ビザタッチ」に対応する。他の電子マネーの導入も今後検討する。また、自社カード「UCS」にも、2種類の電子マネー決済機能をつける。

混雑の緩和

ユニーは「電子マネー決済はこれから生活基盤に浸透する可能性がある。精算時のスピードアップで、混雑の緩和にも役立つ」と期待している。

セブン&アイ・ホールディングス(HD)
nanaco(ナナコ)

電子マネーの導入を巡っては、セブン&アイ・ホールディングス(HD)が、自社開発の前払い方式電子マネー「nanaco(ナナコ)」を、2007年秋に導入予定だ。複数の電子マネーを扱うレジは、傘下のコンビニエンスストアのセブン-イレブンで実績があるが、スーパーのイトーヨーカ堂での導入は未定という。

イオン
Suica(スイカ)とiD(アイディ)

イオンは2007年1月から、JR東日本の「Suica(スイカ)」とNTTドコモの「iD(アイディ)」を扱う予定。

ITトレンド~電子マネー

(2002年8月1日 日経情報ストラテジー)

Suica(スイカ)

スイカの利用者はあらかじめ、専用の入金機でカードにお金をたくわえておく。そうすれば、改札を通るたびに乗車料金は自動的に差し引かれる。いちいち切符を買う必要がない。それに、素早く改札を通り抜けられるのはスピーディーで快適だ。

JR東日本
メリット

こうしたメリットは顧客にすぐに受け入れられ、スイカはあっと言う間に普及した。登場から半年が経過した2002年5月下旬には、利用者が400万人を突破。東京近郊でJR東日本の定期券を持つ人の半数は、すでにスイカを使い始めた計算になるという。

FeliCa(フェリカ)

ソニー
ICカード技術で優勢

JR東日本はスイカを導入するにあたり、ソニーが開発した非接触型ICカードの技術「FeliCa(フェリカ)」を採用した。決め手になった理由は、大きく2つある。

処理スピード
改札

1つは、フェリカの処理スピードが極めて速かったことだ。スイカを改札のパネルに当てたとき、0.2秒で処理が終わる。これなら、いつも混雑しているJR東日本の改札で顧客をスムーズにさばける。処理が遅れて、顧客をイライラさせることはない。

電子マネー
香港の実績

もう1つの理由は、電子マネーで先行する香港の実績だ。香港は世界でも例外的に、1997年から電子マネーが普及している。その香港の電子マネーも、フェリカを採用している。

非接触型ICカード
シンガポール

2002年春になって、シンガポールもフェリカを使った電子マネーを本格的に展開しており、ソニーはアジアで電子マネーの一大基盤を築きつつある。フェリカを使った非接触型ICカードの発行枚数は、世界で3000万枚を超えた。

Edy(エディ)

急浮上してきた「エディ」
ビットワレット

ソニーはICカード技術だけでなく、電子マネーそのものも広めようとしている。その中心的な役割を果たすのが、ソニーグループが46%出資するビットワレット(本社東京)だ。2002年から2003年にかけて、ビットワレットはソニー社の電子マネー「Edy(エディ)」で攻勢をかける。エディもフェリカの技術基盤を利用して開発している。

ICカード型社員証
東京・品川

ソニーは2万6000人分のICカード型社員証にエディを組み込んだ。ソニー社のお膝元である東京・品川や大崎では、エディが使える店が急増している。

エリア
スターバックスコーヒー

エディが“ソニー村”でしか使えないなら意味はないが、エリアは着実に広がってきている。2002年4月には、東京三菱銀行が約1万7000人分の行員証をICカードに切り替え、エディを搭載した。行員は社内の売店や自動販売機でエディが使える。東京三菱銀行がエディを導入したため、丸の内本社近くのスターバックスコーヒーでもエディが使えるようになった。

エーエム・ピーエム・ジャパン
am/pm

2002年7月には、エーエム・ピーエム・ジャパン(am/pm、本社東京)が全1400店でエディを使えるようにする。am/pmがエディに対応したカードを発行する。大手コンビニとしては初めて、電子マネーの本格導入を決めた。

エディ対応カード
少額決済市場

これを含めて、ビットワレットは2006年末までに3000万枚のエディ対応カードを発行する計画だ。その段階の年間取扱高は4兆円を見込む。国内の少額決済市場を一気に取り込む。

東急
技術が同じでも中身は別物

スイカはひとまず成功したと言える。スイカに刺激され、東京急行電鉄(東急)などの私鉄や、地方のバス会社などが一斉に電子マネーの導入に動き出した。2003年中には、全国で様々な電子マネーが本番運用を迎える。

フェリカを基盤

これらすべてが、ソニーのフェリカを基盤にして開発される予定だ。幸か不幸か、日本国内の非接触型ICカード市場はソニーが大勢を占めた。

搭載
仕様

ところが、せっかくICカード技術が同じなのに、そのうえに搭載される肝心の電子マネーの仕様は各社でバラバラだ。いまのところ、相互に使えない。

運営各社
普及

運営各社が顧客の使い勝手を最優先して、電子マネーを統一しなければ、普及には早々にブレーキがかかる。

オクトパスカード

香港
電子マネー事情

香港市民にとって、街中至る所で使える電子マネー「八達通(オクトパスカード)」は生活必需品だ。非接触型ICカードであるオクトパスカードは、狭い香港を網羅する電車やバス、船といった主要な交通機関で使える。地下鉄の乗降客のうち、約70%がオクトパスカードを使っているという。

コンビニ
ショッピングセンター

オクトパスカードは、コンビニやショッピングセンター、飲食店、有料駐車場など、あらゆる場所で使える。入金機も駅に必ず設置されており、コンビニでも入金できる。

地下鉄やフェリー
自動販売機

記者も香港滞在中、オクトパスカードを使って、地下鉄やフェリー、トラム(路面電車)に乗り、セブン-イレブンとサークルケイで食べ物や雑誌を買い、スターバックスでコーヒーを飲み、自動販売機でコーラを買い、劇場で映画まで見た。電子マネーの広がりと便利さを、あらためて体験できた。

ICチップを内蔵
携帯電話

オクトパスカードはICチップを内蔵した時計型のものや、携帯電話に装着できるカバーにICチップを内蔵したものまである。香港ではすでに、携帯電話と電子マネーの融合が進んでいる。携帯電話で話しながら駅に向かい、そのまま携帯電話を改札の読み取り機に当てて通り抜けられる。

スイカとの違い
企業が提供するサービス

オクトパスカードがJR東日本のスイカと違うのは、130もの企業が提供するサービスで共通に使えることだ。この数が、オクトパスカードの爆発的な広がりを後押しした。

オクトパスカーズ社
旅行者も購入

カードを発行するオクトパスカーズ社は、すでに850万枚を出荷した。この数は、香港の人口を大きく上回る。旅行者の多くも購入するからだ。オクトパスカードのトランザクション(情報のやり取り)数は、1日当たり720万回に達する。

主要な交通機関
顧客の利便性を重視

なぜ、香港では電子マネーが普及したのか。その理由を、オクトパスカーズ社のCEO(最高経営責任者)であるエリック・タイ氏は2つ挙げる。「1つは、主要な交通機関が初めから手を組んだこと。もう1つは、オクトパスカードの使い方がとても簡単で、便利だから。企業の論理ではなく、顧客の利便性を重視して導入した」。

安全性の高さ
音楽CDやゲームソフト

加えて、オクトパスカードの安全性の高さが、企業の採用を早めたという。1997年に利用が始まったオクトパスカードは、「不正コピーされたカードが1枚もない」(タイ氏)。いまだに不正コピーされた音楽CDやゲームソフトがはんらんする香港では、奇跡的なことだ。

非接触型ICカード

ICチップ
無線

薄いカードの内部に埋め込まれたICチップが、無線で読み取り機と情報をやり取りできる仕組み。ICチップが外部にむき出しになっている接触型のICカードより、安全性や耐久性が高いと言われている。

FeliCa(フェリカ)

決済
アンテナ

お金の情報や定期券の経路情報を蓄積するICチップと、外部の読み取り機と無線通信するアンテナで構成される。アンテナが電波を受け取り、同時に発電してICチップに電力を供給する。フェリカを使った電子マネーは、内部のアンテナで電波を送受信できる範囲で決済できる。スイカなら、読み取り機から10センチ以内なら決済が可能だ。

ICチップとアンテナ
携帯電話に埋め込む

ICチップとアンテナさえあれば、“入れ物”はカードでなくてもいい。今一番注目されているのが、携帯電話にICチップとアンテナを埋め込む計画だ。大多数の人が携帯電話を持っている現状を考えれば、電子マネーの普及を一気に加速するだろう。

NTTドコモ
ソニーが開発

すでにソニーが開発に着手していると見られ、NTTドコモなどの主要な携帯電話会社が採用に踏み切る日も近いと考えられる。

IC化による新サービスが続々 カードビジネスの将来を探る

(2005年11月1日 日経ITプロフェッショナル)

クレジットカード

カード業界は今後、ICチップを搭載したクレジットカードをきっかけに大きく変わる。

鉄道各社
乗車券

鉄道各社は乗車券の使い勝手向上を売り物に、自前のカードに本腰を入れ始めた。

アウトソーシング事業
業界再編や新規参入

カード大手がアウトソーシング事業を強化した結果、業界再編や新規参入も加速している。

カード業界
地殻変動

カード業界では現在、大きな地殻変動が起こりつつある。その引き金を引いたのがICカードだ。ICカードを中心に、今後のカード業界の行方を決定付ける重要な動きについて解説しよう。

チップを搭載したカード
キャッシュカード

ICカードは集積回路(Integrated Circuit)のチップを搭載したカードを意味する。クレジットカードやキャッシュカードをはじめ、オフィスビルの入退館証や、鉄道・バスなど交通機関の乗車券など、日常生活の様々な場面で用いられている。もはやICカードそのものが何かという解説が不要なほどに、世の中に浸透したと言ってよいだろう。

銀行系カード会社
ICチップ付きカード

カード業界でも、銀行系カード会社を中心に2001年ごろから、クレジットカードのIC化が本格化してきた。2006年度中には、日本国内で新規に発行されるカードのうち、ICチップ付きカードの占める割合が初めて50%を超えると予想される。

EMV

ICクレジットカード

読者の中にも、カード表面の左端にキラキラ輝く金色のICチップを搭載したICクレジットカードをお持ちの方が多いのではないだろうか。このICチップはEMVと呼ぶ全世界共通の規格に基づくもので、加盟店の端末に接触させると、端末とチップとの電気的な信号のやり取りによって、決済に必要な処理を行うことができる。カード業界で「ICクレジットカード」という場合は、原則としてEMV規格に準拠した接触型ICチップを搭載したカードを意味する。

偽造・不正の防止効果を狙う

ICクレジットカードの発行には、従来の磁気ストライプ付きカードの発行に比べて、数倍ものコストがかかる。ICチップのコストに相当する分だけ生カード(会員番号などの情報をコーディング/刻印する前のカード)の単価が上乗せされることに加え、カード発行プロセスが複雑化するためである。というのも、ICチップには、従来の磁気ストライプに格納する情報(会員番号や有効期限、各種コードなど)に加え、カード利用者が会員本人かどうかを識別するための暗証番号や、カードの偽造を防止するための各種情報(後述)をICチップに埋め込む必要があるからだ。

セキュリティ
目的

にもかかわらずカード会社がICクレジットカードの普及に努めているのは、なぜだろうか。それは、カードのセキュリティを抜本的に強化することで、次の2つの目的を達成しようとしているからである。

スキミング
暗証番号

1つは、磁気ストライプに格納された情報を盗み取る「スキミング」に代表される、カードの偽造・不正被害を防止することである。ICカードの場合でも、チップに格納した情報を不正に読み取って複製することは技術的に不可能ではないものの、磁気ストライプと比べて飛躍的に難しいため、コスト的に現実的ではない。加えて、加盟店の端末がICカードに対応している場合は、カード利用者は端末に暗証番号を入力しなければならない。

ハードとソフト
被害額

こうしたハードとソフトの両面による偽造・不正防止効果は既に実証されている。ICカードへの移行が早かったフランスでは、1989年からの10年間に、カードの偽造・不正による被害額が70%近く激減した。

カード自体に「認証」機能
オフライン化

カード会社がICカードの普及に努めるもう1つの目的は、カード取引を“オフライン化”することだ。

オンライン化
システム運用

今日ではほぼすべてのカード取引がオンライン化されている。すなわち、会員がカードを利用する都度、そのカードが有効なものかどうかを加盟店の端末を通じてカード会社のシステムへ照会し、利用可否の承認(オーソリゼーション)を行う。こうした“全件オーソリ”は、リスク管理に絶大な効果を発揮するものの、そのために必要な通信とシステム運用のコストは莫大である。

メリット
偽造カード

これに対してICカードでは、カード自体に「認証」機能を持たせることで、偽造カードかどうかが加盟店の店頭で即座に分かる。その結果、カード取引に伴うオンライン処理量を大幅に減らすことができることに加え、店頭での取引に要する時間を短縮できるメリットもある。

VISAやMaster
カード発行者

オフラインでの「認証」では、カード発行者(イシュア)と、VISAやMasterなどのブランド管理団体が、それぞれの「暗号化の鍵」を用意する(以下では、前者をイシュア鍵、後者をブランド鍵と呼ぶ)。そのうえでイシュアは、(1)個々のカードを識別するための平文データ値(暗号化されていない数字列)、(2)平文データ値をイシュア鍵で暗号化したもの、(3)イシュア鍵自体をブランド鍵で暗号化したもの、の3つをICチップに格納したカードを発行する。

ブランド鍵
イシュア鍵

加盟店に設置するICカード対応端末には、あらかじめブランド鍵が格納されている。会員がカード取引をする際には、加盟店の端末でICチップの情報を読み取り、端末に格納されたブランド鍵で(3)の暗号化されたイシュア鍵を解読し、そのイシュア鍵を使って(2)の暗号化データを解読する。こうして得られた平文データ値が、(1)の平文データ値と一致すれば、そのカードが正当なものであることが分かる。

IC対応端末の普及が課題
上限金額

もっとも、リスク管理の観点から、すべての取引をオフライン化するわけではない。取引金額があらかじめ定めた上限金額(フロアリミット)を超えた場合や、オフライン取引が一定の回数以上連続した場合は、オンラインでオーソリゼーションの処理を実行する。さらに、カード取引のうち一定割合を無作為に抽出して、オンラインで処理している。

設置工事や操作教育
業務面の負担

しかし、ICカードが真価を発揮するには、加盟店の端末をICカードに対応した機種にしなければならない。ところが、日本国内だけで200万店を超える加盟店に設置されたすべての端末を更新するには、端末のコストはもちろん、設置工事や操作教育といった業務面の負担も大きい。そのため、現時点でICカード対応の端末の設置数は20万台足らずにとどまっており、切り替えは遅々として進んでいない。

サイン取引
暗証番号

また、ICカードを使った取引では、すべての会員に自分のカードの暗証番号を記憶してもらうことが必要になる。ところが、サイン取引に慣れた会員の多くは、クレジットカードの暗証番号の存在すら認識していないケースが少なくない。これもまた、ICカードの本格運用に向けた大きな障壁である。日本でICカードが真価を発揮するには、まだしばらく時間がかかりそうだ。

加速する“非接触型”の普及
無線通信

EMV規格の接触型ICカードが普及に向けて苦戦する一方で、日常生活にしっかり根付いた力強い展開を見せているのが“非接触型”のICカードである。非接触型ICカードでは、カードと端末を接触させることなく、両者の信号のやり取りを、カードに埋め込まれたアンテナを介した無線通信によって行う。

特徴
媒体

その最大の特徴は、端末にカードをかざすだけで必要な処理が瞬時に完結するという簡便性と高速性だ。また、ICチップと端末を物理的に接触させないので、ICチップを装着する媒体がカードに限定されない。

おサイフケータイ

利点

こうした利点を生かして、非接触型ICカードによる“電子マネー”の普及が勢いを増している。非接触型ICカードは、ソニーの開発した「FeliCa」という技術に準拠したものが一般的だが、このFeliCa対応のICチップを搭載した携帯電話にICカード同様の機能を持たせた「おサイフケータイ」も、電子マネー普及の起爆剤となりそうだ。

全日空
共同で展開

電子マネーとして使える主な非接触型ICカードを表1にまとめた。JR東日本の「Suica」や、ビットワレット(ソニーファイナンスやNTTドコモなど61社が出資)が全日空などと共同で展開している「Edy」は、読者もよくご存知だろう。

鉄道や自販機
コンビニなど

電子マネーは従来、鉄道や自販機、コンビニなど、決済にスピードが求められる場所を中心に、硬貨の代替を狙った“少額決済”サービスとして運用され、クレジットカードを補完するものに過ぎないと考えられてきた。ところが、この電子マネーが今、クレジットの世界を大きく変えようとしている。実は、その将来を占うカギは香港にあった。

Octopus Card

一歩先行く香港の電子マネー

香港で1994年にサービスが始まった非接触型ICカードの「オクトパス・カード(Octopus Card)」は、市内全域の各種交通機関(鉄道、バス、フェリーなど)のチケットとして使えるだけでなく、飲食店やドラッグストア、スーパーなどの小売店での支払いにも使える。これだけなら、同じFeliCa技術を採用したSuicaと変わらないが、オクトパス・カードが決定的にSuicaと異なるのは、カードの残高金額の積み増し(チャージ)をカード読み取り端末で自動的に行い、あらかじめ登録したクレジットカードで決済できるようにした点だ。

キャッシュレス決済
利用範囲

一般に、電子マネーの残高上限は3万~5万円程度に過ぎない。このため、利用範囲が拡大して、様々な場所で1日に何度も使うようになると、現金で残高をチャージする処理が頻繁に必要になり、キャッシュレス決済手段としての意味が薄れてしまう。とはいえ、盗難・紛失の恐れを考えれば、カードの残高はできるだけ少ない方が安心だ。

キャッシュレス・ツール
驚異的な普及

この矛盾を解決したのがクレジットカードからのチャージであり、電子マネーを初めて真の“キャッシュレス・ツール”へと進化させたサービスと言えよう。こうした斬新さも手伝って、オクトパス・カードは現在、香港の人口の95%が所有するまでに驚異的な普及を遂げた。

オートチャージ
JR改札機

Suica事業の拡大を狙うJR東日本も、オクトパス・カードを上回る成功を日本で実現するべく準備を進めてきた。いよいよ2006年から、クレジットカード決済を利用したJR改札機での“オートチャージ”を開始する。

自動的にチャージ
クレジットカードで決済

これにより、利用者がSuicaを使って改札機を通過する際に、残高が一定金額を下回っている場合は、改札機から指定金額を自動的にチャージできるようになる。チャージした金額は、利用者がSuicaに“ひも付け”して登録しておいたクレジットカードで決済し、最終的にはカード利用代金の振替先に指定した金融機関の口座から引き落とされる。こうしたことが可能になるのは、改札機のチャージ情報が、Suica運用センター・システムを介して、クレジットカード会社に送信されるためだ。

パスネット・カード

パスネットICカード

一方、首都圏のほとんどの民間鉄道会社/バス会社が共同で発行する「パスネット・カード」も、2007年春からSuicaと同様にICカード化され、同時にオートチャージ・サービスが始まる(当面は磁気カードも並存)。さらに、各社が加盟するパスネット協議会とJR東日本が連携し、SuicaとパスネットICカードを、それぞれの改札機やバス乗降口などで相互に利用できるようにする。

交通ICカード
駅ナカ店舗

その結果、首都圏全域の鉄道・バスが、1枚のICカードで自由に乗り降りできるうえに、駅ナカ店舗はもちろん、市中のコンビニなどでも電子マネーとして使えるようになる。こうした「交通ICカード」による同様のサービスは、既に関西でも一部導入されており、今後は福岡、名古屋などの大都市圏にも順次広がっていく。

ビューカード

知名度生かしクレジット参入

ここで注目したいのは、交通ICカードでのオートチャージによる決済に利用できるクレジットカードは、それぞれの交通機関が発行するものに限定される、ということだ。例えば、JR東日本のSuicaでオートチャージを利用するには、同社が発行するクレジットカードの「ビューカード」に入会しなくてはならない。各社のクレジットカード事業を強化または新規に立ち上げることが狙いである。

小田急電鉄や京阪電鉄
グループポイント

既に、これまでカード事業を手がけていなかった小田急電鉄や京阪電鉄も、2003年に相次いでカード子会社を設立して準備を進めている。大手私鉄の多くは、傘下に百貨店やホテル、スーパー、レジャー施設など多様な事業を抱える。各社が発行するカードには、これらの店舗・施設で利用できる“グループポイント”が目玉サービスとして付帯しており、沿線住民にとっては極めて魅力的だ。

民間の鉄道会社
首都圏だけで2000万枚

Suicaの発行枚数は既に1000万枚を超えているが、ほぼ同数のICカードが民間の鉄道会社/バス会社を通じて発行されると見込まれている。結果的に2010年ごろまでに、首都圏だけで2000万枚を上回る交通ICカードが出回ることになる。

オーエムシーカード
セントラル・ファイナンス

そのタイミングで、沿線で抜群の知名度とブランド力を持つ鉄道会社が、乗車券をベースに、クレジット、電子マネー、ポイントの各機能を一体化したICカードを武器として、クレジット事業に本格参入するのだ。仮に交通ICカードの3分の1がクレジット機能付きになれば、オーエムシーカードやセントラル・ファイナンスといった大手カード会社の1社分に相当する数の会員が誕生することになる。成人1人当たりのカード保有が平均2枚を超える現状を考えれば、これらの新会員の多くが既に持っているカードから退会することも考えられる。

大手はアウトソーシングに活路
事業化

もっとも、迎え撃つ大手カード会社も手をこまぬいているわけではない。むしろ、こうした動きをチャンスととらえ、新規参入企業とうまく手を組むための準備を整えてきた。その切り札がアウトソーシングの事業化だ。

豊かな顧客基盤
初期投資

鉄道会社をはじめとする一般の事業会社は、豊かな顧客基盤を持つという点でカード事業成功の必要条件を満たしているものの、業務ノウハウを持つ人材がいないという弱点がある。加えて、必要なシステムをすべて独自に開発するには、100億円単位の初期投資が避けられない。

JCB
UFJニコス

そこで、カード事業への参入に際して、事業運営にかかわる業務とシステムを、そっくりそのまま大手カード会社にアウトソースする方式が脚光を浴びているのだ。先に述べた小田急電鉄はJCBに、京阪電鉄はUFJニコスに、それぞれアウトソースすることで新規参入を果たした。大手カード会社は専任の営業部隊を設置して、アウトソーシング事業への取り組みをさらに強化しようとしている。

副作用
業界再編の加速

ところが、アウトソーシングの出現は、一方で思いもよらない“副作用”をカード業界にもたらした。その1つは、カード会社同士の合従連衡による業界再編の加速である。

ポイント・プログラム
コールセンター

カード会社がアウトソーシング事業で優位に立つには、ポイント・プログラムの内容からコールセンターの営業時間に至るまで、提携先企業の固有要件に合わせた柔軟な業務・システム対応を低コストで実現しなければならない。そのためには徹底的なスケールメリットの追及が避けられない。

クレディセゾン
UCカード

実際、JCBとUFJニコスカードは、JCBが現在開発中の次期基幹系システムを共同利用することで合意済みである。また、クレディセゾンは業務とシステムを全面委託する方向で、UCカードと包括提携した。

カード事業への新規参入も加速
提携カード

もう1つの副作用が、カード事業への新規参入の加速である。アウトソーシングの出現によってカード事業への参入障壁が解消した。そのため、これまで「提携カード」方式でカード会社と組んでいた企業が、多少の貸し倒れリスクさえ覚悟すれば、自前のカードを発行する方がはるかに多くの収益を見込めるうえに、顧客情報を制約なく活用できる、という大きなメリットに気付き始めたのだ。

三井住友カード
楽天

その結果、これまで縁のなかった電力・ガス・通信といった多種多様な企業が、有望な新規事業としてカード事業への進出を本気で検討している。2005年4月にはNTTドコモが三井住友カードの株式を、6月には楽天が国内信販の株式を、それぞれ買収して経営に参加した。

既存カード会社
顧客離れ

このように、潤沢な資金と数千万人規模の顧客基盤を併せ持つ“超有名企業”が本格参入することは、既存カード会社からの顧客離れを加速し、業界地図を大きく塗り替えるインパクトをもたらすに違いない。

プレイヤー
変化

ICカードを活用したキャッシュレス化の進展で、日本のカード市場は今後とも堅調な成長を続ける。ただし、プレイヤーの顔ぶれには大きな変化が起きそうだ。

マスターカード・インターナショナル
ビザ・インターナショナル

EMVは、代表的な国際ブランド管理団体である欧州のユーロペイ(現在はマスターカード・インターナショナルが吸収)、米国のマスターカード・インターナショナル、ビザ・インターナショナルの3社が1996年に合意したICチップの統一規格。3社の頭文字をとってEMVと名付けられた。

EMVCo
EMVの目的

EMVの目的は、暗号鍵を用いて、接触型ICカードと決済端末とのデータ授受のセキュリティを高めることである。2004年にEMVの仕様策定や運営管理を行う団体「EMVCo」にJCBが出資・経営参加したことで、世界標準としてのEMVの地位はさらに強まった。

「Apple Pay」日本対応へ

(2014年10月2日 日経コンピュータ)

iPhone

「おサイフケータイ」に近い

Apple Payの店舗での利用イメージは、日本の「おサイフケータイ」に近い。iPhoneを店舗の端末にかざすと決済できる。

アップル
マクドナルド

米国では、まずアップル直営258店舗で利用できるようにし、その後メーシーズやマクドナルドなど有力チェーンを含む22万店以上でも使えるようになる。

PayPass
payWave

米国でApple Payが22万店以上という規模でスタートできるのは、既にNFCに対応した非接触決済端末が行き渡っているからだ。アップルの提携相手である米マスターカードが提供する非接触決済サービス「PayPass」や、米ビザの「payWave」用の端末をApple Payでも利用できる。

Apple Payの根幹
技術とシステム

マスターカードはアップルのパートナーとして、Apple Payの根幹となる技術とシステムを提供している。マスターカード社ジャパンオフィスの広瀬薫上席副社長は「既存のPayPass決済端末は、一部の古い機種を除けば、そのままApple Payに対応できる」と説明する。

新端末はFeliCaとNFCに対応
楽天Edy、WAON、nanaco

一方で、日本の既設の非接触決済端末は、ソニーの「FeliCa(フェリカ)」方式にしか対応していないものが多い。Suicaなどの交通系ICカードや、楽天Edy、WAON、nanacoなどの電子マネーがFeliCa方式を採用しているからだ。

FeliCaとApple Pay用のNFC
ほぼ別物

FeliCaと「Apple Pay用のNFC」は無線通信の仕様こそ共通だが、決済を実現するソフトウエアやセキュリティ方式が異なるため、ほぼ別物と考えた方が分かりやすい。

FeliCa勢の厚い壁
苦戦

マスターカードは日本でもNFC方式のPayPassを展開しているが、Suicaや楽天EdyなどFeliCa勢の厚い壁に阻まれているのが実情だ。カードの発行が進まず、加盟店もあまり増えていない。このままでは、Apple Payも苦戦を免れないだろう。
だが、状況が変わる可能性はある。NFCとFeliCaの両方に対応した非接触決済端末が増えているためだ。

パナソニック システムネットワークス
JT-R550CR

例えば、非接触決済端末で国内最大手のパナソニック システムネットワークスは、2013年秋ごろから、両方に対応した非接触IC端末「JT-R550CR」を出荷している。「JT-R550CR」端末のタッチ部には、NFCとFeliCaの両方のロゴが表示されており、それぞれの方式に対応していることを示している。パナソニック システムネットワークス社によれば、日本で新規に導入されるのはほぼこのタイプだという。

新しい非接触決済端末
NFCに対応

非接触決済端末がNFCに対応したからといって、Apple Payを使う人が増えるとは限らない。「FeliCaで十分」となる可能性も高い。だが、新しい非接触決済端末への置き換えが進むかどうかが、Apple Pay普及に向けた第一関門になることは間違いないだろう。